宇多丸のラジオをポッドキャストで聴きながら書き始めています。
山田洋次監督『隠し剣 鬼の爪』のレビューです。
<作品解説・あらすじ>
隠し剣 鬼の爪 - goo 映画
幕末の東北。海坂藩の平侍、片桐宗蔵(永瀬正敏)は、母と妹の志乃、女中のきえ(松たか子)と、貧しくも笑顔の絶えない日々を送っていた。やがて母が亡くなり、志乃ときえは嫁入りしていった。ある日宗蔵は、きえが嫁ぎ先で酷い扱いを受けて寝込んでいることを知り、やつれ果てたきえを背負い連れ帰る。その頃、藩に大事件が起きた。かつて、宗蔵と同じ剣の師範に学んだ狭間弥市郎が、謀反を起こしたのだ。宗蔵は、山奥の牢から逃亡した弥市郎を切るように命じられる…。
アカデミー外国語映画賞にノミネートされた『たそがれ清兵衛』から2年、山田洋次監督が、再び藤沢周平の小説をスクリーンに映し出した。原作は、隠し剣シリーズの「隠し剣鬼ノ爪」と、男女の愛を描いた短編「雪明かり」を組み合わせたもので、山田監督らしい綿密な人間描写やコミカルな要素が取り入れられ、重層的なドラマが展開していく。「山田組」の撮影現場は上出来以上のものを要求されることで知られているが、主演の永瀬正敏は、マゲのために本当に頭を剃りあげたほど、熱を入れて宗蔵役に挑んだ。
愛する者の幸せを願う心、世の理不尽に悔しさをかみ締めながら信念に生きる人間たちの姿は、『たそがれ清兵衛』同様に、観客の胸を震わせるだろう。庄内弁の柔らかさも心地よいが、セリフ一言に人物の表情が現れて、粋を感じることが出来る。冨田勲氏の壮麗な音楽も心を打つ。
<レビュー>
2000年代に入ってから、山田監督は藤沢周平の時代小説を映画化した作品を三本撮っている。
それが2002年『たそがれ清兵衛』であり、2004年『隠し剣 鬼の爪』であり、2006年『武士の一分』である。
今回レビューする『隠し剣 鬼の爪』は、他の二作品と比べ幾分地味である。
『たそがれ~』と『武士の~』は大きな話題になったが、『隠し剣~』は大きな話題にならなかった。
まあ、『たそがれ~』は米国アカデミー賞の外国映画部門にノミネートされて作品自体が評価され、『武士の一分』はキムタク主演ってことで公開前から大きな話題になったわけで、それに比べるとこちらは地味なのはまあ仕方がない。
しかしですね、この作品もなかなかやりよるのです。
藤沢周平三部作の山田洋次はそれまでの凡庸極まりない作品とは違ってなかなかのセンスを発揮している。
この作品のクライマックスが凄い。
そう、今回はこれを語りたいのだ。
これが凄いのです。
いいですか、『たそがれ~』の真田広之と田中泯の決闘シーンがありますね。これからも語り継がれるであろう、緊張感に満ちたあの有名なシーンです。
しかしですね、場合によっては、『隠し剣 鬼の爪』のクライマックス、つまり、あの一瞬のシーン、わかりますかね、永瀬正敏が緒方拳を暗殺するシーン、これはね、ある意味『たそがれ~』のクライマックスを個人的には遥かにしのぐ名シーンだと思っているわけです!
このシーンは、観なさい!
このシーンだけでもいい。それだけで十分だ。
これは日本映画史上に残る名シーンですよ個人的には。
山田洋次といえば、もうこれですよ。
はっきり言ってぼくは山田洋次は駄目な監督だと思うのです。
『幸福の黄色いハンカチ』なんて吐き気がするぐらいの駄作だと思うし、『キネマの天地』とか『寅さん』シリーズや『学校』シリーズなんていうのは平板極まりない演出に辟易するわけです。
けれどね、あの一瞬の素晴らしいシーンだけ、あれだけでぼくはもう山田洋次は良い監督だと後世に伝えようと決心したわけです。
わかりますか。
そのぐらいの素晴らしいシーンです。
映画を観たらやっぱりゾクゾクしたいでしょう。
それならとりあえず、この作品の暗殺シーンを観なさい!
で、例によってヒロインの評価をしたいのですが、
まずその前に『たそがれ清兵衛』のヒロイン宮沢りえと『武士の一分』のヒロイン壇れいは凄く良いということを言っておきます。
そんでもって今回の松たか子も上記の二人と同じようなたたずまいのヒロインを演じている。
つまり、まあおおざっぱに言えばおしとやかで家事ができてしっかりしていて優しくて芯が強いっていう、いわば我々の好む典型的な、ステレオタイプの正しいヒロインです。
ただやっぱり宮沢りえや壇れいに比べるとどうしても華がないっていうか、まあ凄く頑張っているんですがね、というかそもそも松たか子の顔をそこまでぼくが美人だと認めていないというのが大きいんだけど、つまりはもう一歩、惜しい!ってことです。
でも頑張ってます。
いいと思います。
しかし、それにしても最後に出される必殺技(隠し剣)が強烈です。
いやあゾクゾクする。
(追記)
これらの三部作は、演者の身体的な優位性を第一に撮っている部分が結果的に正解、ということが共通して挙げられる。
『たそがれ~』の決闘シーンは真田広之の運動神経の良さと田中泯の前衛舞踏家としての所作のセンスが長いカット割りでおさめられているし、本作の暗殺シーンも、シュン!と切ったあと、俯瞰シーンで見せている。つまり緒方拳と永瀬正敏の動きだけで見せているのだ。
切って、立ち去る永瀬正敏。切られて倒れる緒方拳。
この撮り方が非常に大胆かつ繊細で素晴らしいのは、動きを俯瞰でしかも僅かな採光で撮っているからだ。
両者の動きだけが純粋に昇華されて見える。
★★★★☆
夜中の12時から3時にかけて映画を観ることが多い。
近所を自転車で疾走している姿をよく目撃されている。
<マダム葵>
短期間でもの凄い本数の映画を観たりする。
夕方の花街でそそくさと歩く後姿を目撃されることがある。